叱られて育つと打たれ強くなる?

●叱られ慣れていないから打たれ弱い?

近頃の若い者は子どもの頃から叱られたことがないから打たれ弱いんだ。
ほめられてばかりで叱られ慣れていないから、会社でちょっと叱られると立ち直れず、すぐにやめたいと言い出す。
うちの課はそういうのばっかりで大変だよ。
これじゃあ業績も上がらないよ。

このような話を耳にしたことはありませんか?
職場の上司が自分の部下について嘆くときよくこういう話をします。
私も何度か聞いたことがあります。

あなたは、このような話を本当だと思いますか?
これらを真に受けて「やっぱりほめてばかりではいけないんだ。打たれ強くするためにもっと叱らなくては」と思いますか?

実はこういう話は全て作り話です。
私はそういう上司たちに聞いてみたいです。

「あなたは『やめたい』と言っているその若い部下が、子どもの頃どのように育てられたのか本当に知っているんですか?その部下の親は叱ることが多かったか、ほめることが多かった、本当に知っているんですか?調べたんですか?どうやって調べたんですか?親と面談でもしたんですか?あるいは探偵でも雇って調べたんですか?」。

●上司にとって都合のいい作り話

このように嘆く職場の上司はたくさんいますが、そのうちの誰一人として、実際に調べた人はいません。
そんな暇なビジネスマンがいるでしょうか?

調べてもいないのに、なぜそんなことを言うのでしょうか?
それは、1つには世間のみんなが言っているからです。
自分の頭で考えることなく、みんなが言うから言っているだけなのです。

しかも、2つめとして、こういう話は自分にとって実に都合のいい話です。
自分の部下がイマイチなのは親のせいであり、自分の課の業績が上がらないのは部下の親の育て方が悪かったせいだと言っているのです。。

本当に仕事ができて人格も優れた上司は絶対にこんなことは言いません。
「自分が預かった若い部下が、やる気をなくしてやめたいと言っている。この部下が自信を持ち、やる気になるためにはどういう導き方をすればいいのか?」と一生懸命に考えます。

間違っても「育てた親のせいだ」なんて言いません。
人のせいにするのではなく自分の責任で引き受けて努力します。

●叱られて育つと自己否定感と他者不信感にとらわれる

ところで、先ほど「実際に調べた人はいません」と書きましたが、本当は実際に調べた人たちがいます。
それはビジネスマンではなく、教育心理学の専門家たちです。
子どもの頃にどういう育てられ方をするとどういう大人になるのか?
親の言葉遣いが子どもの成長にどういう影響を与えるのか?
そういったことを調べるのが教育心理学のメインテーマの一つなのです。

専門の研究者が膨大な数の親子と面談したり、実際の親子のやり取りを動画にとって分析したり、練りに練られた質問項目でアンケート調査をおこなったりなど、非常に科学的な研究がおこなわれています。

大規模な研究になると、何千人にも及ぶ対象者たちを数十年にわたって追跡調査することもあります。
そういった研究の中でわかってきたことは、先ほどの上司たちが言っている紋切り型の認識とはまったく正反対のことばかりなのです。

子どもの頃から叱られることが多かった人、つまり叱られ慣れている人は、自分はダメな人間だと感じて自己肯定感が持てなくなります。
すると何事においても「自分はできる」と思えなくなります。
そして、「どうせ自分はダメだ」という自己否定感にとらわれ、がんばりがきかなくなります。

同時に、叱ってばかりいる親に対しては「自分のことが嫌いなのだ」と感じ、愛情不足感を持つようになります。
このような親に対する不信感を持ってしまうと、その後の人間関係も同じように不信を土台にして作るようになります。
つまり、他人が信じられないという他者不信感です。

●自己肯定感と他者信頼感がある人は失敗を乗り越えられる

ですから、「よく叱られて育った人は打たれ強い」というのは、完全な勘違いなのです。
そういう人は職場で失敗して上司に叱られると、「どうせ自分はダメだ。自分にできるはずがない。やめるしかない」となりがちです。

しかも、他者不信感もあるので、叱ってくる上司に対して「あの上司は前から私のことを嫌っていた。私なんかいないほうがいいと思っているんだ。やめさせてもらいます」となりやすいのです。

反対に、子どもの頃から叱られることが少なく十分ほめてもらえた人は、自己肯定感が育ち、「自分はできる。がんばれる」と思えるようになりまです。

同時に、親の愛情を実感できているので、親を信頼する気持ちも育っています。
このような親に対する信頼感がある人は、その後の人間関係も同じように信頼を土台にして作るようになります。
つまり、他人を信じることができる他者信頼感です。

こういう人は職場で失敗して上司に叱られても、「だいじょうぶだ。自分はできる。がんばれる」となって、実際にがんばり続けることができます。
同時に、他者信頼感もあるので「あの上司は自分のために叱ってくれているんだ。よしがんばるぞ」とよい方に解釈してがんばり続けられるのです。

●条件付きのほめ方と無条件のほめ方

さて、ここまでほめることの大切さを書きましたが、ほめ方にも大きく分けて2種類あることを頭に入れておいてください。

1つめは、子どもが何かをがんばったとき、やるべきことがちゃんとできたとき、できなかったことができるようになったとき、などにほめるほめ方です。
こういうときは、できて当たり前と思わずに、しっかりほめてあげることが大切です。

でも、実は、これだけでは不十分なのです。
というのも、これらは条件を満たしたときだけにほめるほめ方(根拠のあるほめ方)だからです。

いつもこういうほめ方だけだと、子どもは「がんばらない自分は受け入れてもらえないのではないか?」「よい結果を出さないと愛してもらえないのではないか?」と思ってしまう可能性があるのです。

ですから、子どもにはもう一つのほめ方、つまり無条件にほめるほめ方(根拠のないほめ方)も大切です。
「生まれてくれてありがとう。あなたがいてくれて本当にうれしい」「どんなあなたも大好き。ありのままのあなたが大好き」「あなたはママとパパの大切な宝物」。

こういう言葉をたくさん贈ってもらえた人は、自己肯定感と他者信頼感が大いに育ちます。
たとえ大きな失敗をしても自分と他者を無条件に信頼してがんばれます。
根拠がなくても無条件に信頼できることが大きな強みになるのです。

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